1.夜、コンビニで、ダンボールを抱えて


「わ、危ない」
(コンビニから出てきた人とぶつかるところだった。荷物をいっぱい抱えてて、前が見えてない?)

「す、すみませんっ、ごめんなさい!」

「ううん、いいのよ。だけど、前は見て歩いたほうがいいわよ?」

「は、はい。すみません。そうします」

(荷物の横からのぞく体勢で、今度は荷物が崩れそう。ハラハラ。あれ? この声……後ろ姿……)
「ねえ、もしかして」

「ハ、ハイッ!」

「ああ、大丈夫だから落ち着いて。違っていたら申し訳ないけど、更級さん?」

「え?」
(チラッ)
「くくくく……熊野さん!」

「やっぱり、更級さん。久しぶり。とりあえず、目の前から荷物をどかすわね」
(ヒョイ)
「あら、意外と軽いのね?」

熊野さん。も、申し訳ありません。わたし、自分で持てますので!」

「いいから。車まで運ばせてよ」
(ニコッ)

「あ、いえ、歩いてきてるので……」

「そうなの? わあ、じゃあ、ご近所さんだったんだ。私も、ここから自転車ですぐの所に住んでるの」

「へ、へえ、そうなんですか。奇遇ですね……」

「うん、奇遇ね」
(トコトコ)

「じゃあ、そういうことなので」

「うん、そういうのとなので?」

「あの、荷物を戻していただいて……」

「何言ってるの」

「ヒエ」

「こんな夜道を女の子が歩いて帰るって聞いて、荷物を目の前に積んで戻せますか。せっかくだから、家まで運ぶわよ」

「え、えええぇ?」

「上がったりしないから、家の前まで案内して」

「……そ、それじゃあ、申し訳ありませんが、お願いします。でも、もしお時間があれば、少し上がっていってください。もし、お時間があればでいいですけど」

「あら、本当? ありがとう。嬉しいわ。ぜひ!」
(更級さん、休職してから1年ぶりだな。うつ病って聞いて、気になってたのよね。別部署であまり話したこともないから、連絡できなかったけど)

(トコトコトコ……チラッ……トコトコトコ……)

(トコ、トコ、ニコッ、トコ、トコ、)
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