失業手当を受けながら副業する場合の注意点

退職後の手続き

 雇用保険の基本手当(以下、「失業手当)は、退職後に求職活動をする期間にハローワークから受けるお金です。

 この失業手当を受けるための条件として、雇用保険に一定期間加入している上で、「失業の状態」にあることも必要です。

 再就職事業を始めることで失業の状態でなくなると、失業手当は受けられなくなります。
(失業手当を受けられる日数を3分の1以上残して再就職や事業を始めることで、「再就職手当」を受けられることがあります)

 しかし、失業中に副業をしているだけのつもりでも、「失業の状態」にないとハローワークからみなされれば、やはり失業手当は受けられなくなります。

 そこで、失業手当を受けながら副業をするのなら、どういった場合にハローワークが「失業の状態」にないとみなすのかは、意識しておきたいところです。

 では、退職前から始めていた副業を続けていても、失業手当は受けられるのでしょうか?
 退職後に副業を始めたとしても、失業手当は受けられるのでしょうか?

 ハローワークにとっての「失業の状態」のルールを知らなかったがために、失業手当を受け損なってしまわないよう、ちょっとしたことだけど重要な注意点をまとめました。

開業届は出さない

「開業届」とは、事業を始めたら税務署に提出する書類です。

 事業を始めて1ヶ月以内に出すことが義務ですが、提出しないことによる罰則はありません。

 また、いつが事業を始めた日になるかの明確な基準もありません。

 例えば、退職前から少しずつ始めていた副業なら、退職日をもって開業届を提出しなければいけない、というものでもないのです

 なので、退職後は1日4時間以上、フルスロットルで副業を頑張るぞ、などと準備万端な方はともかく、次の職を探しながら少しの時間で副業も続けていこう、というのであれば、開業届の提出は早まらないことをお勧めします。

 ただし、個別の状況を踏まえて開業届を出さないことが問題とならないかは、税務署に確認しておいてください。「国税相談専用ダイヤル」(国税庁HPへ外部リンク)から、電話で簡単に聞くことができます。専門家の方が丁寧に相談に乗ってくれると思います。

 なお、開業届を提出することで青色申告が可能となり、節税効果を得られるメリットがあります。

1日4時間以上、週に20時間以上は働かない

 失業手当を受けるためには、4週間に1度、ハローワークで失業の認定を受ける必要があります。

 その際には、「失業認定申告書」という書類を提出します。

 失業認定申告書の最上段には、前回認定日から今回認定日の前日までの期間について、就職就労又は内職手伝いをした日を書く欄があります。

 失業の認定を受ける期間中、1日4時間以上働いた日があると、就職又は就労した日として申告することになり、その日の分の失業手当は受けられません
(事業主に雇用されない自営業等で、1日あたりの収入が2,869円(令和6年度:賃金日額の最低額)未満の場合を除きます)

 ただ、それでもなお副業への熱量が4時間で収まらない日があれば、その日は副業に捧げてもいいと思います。失業手当を受けなければその権利の日数(所定給付日数)も減らないので、受給期間(通常、退職日の翌日から1年間)内に後で基本手当を受ければいいだけ、と考えられるからです。

 また、週に20時間以上働くと、その週だけでなく前後の期間も基本手当が受けられなくなる可能性があります

 一方、1日4時間未満かつ週に20時間未満に収めた働き方であれば、これらの日は内職又は手伝いをした日として申告し、その収入額によっては失業手当が減額されることがあります。

内職又は手伝いをした日は、1日あたりの収入によって失業手当が減額されたり支給されないことがある

 失業認定申告書には、収入のあった日収入額、その収入が何日分の収入かを書く欄もあります。

 令和6年度の場合、
賃金日額(退職前6ヶ月の平均賃金額)✕0.8基本手当(失業手当)日額+1,354円
の計算式で求められる収入までは、失業手当減額されません

 失業手当が賃金日額の50%(比率は退職時点の年齢賃金日額により変動)の方を想定すると、上記の内容は
賃金日額の30%+1,354円
までは、1日4時間未満働いて収入を得ても、失業手当減額されずに受けられる」と言い換えることができます。

 この想定において、具体的に金額を当てはめてみます。賃金日額1万5千円とすると、
「15,000円✕0.3+1,354円」
の計算より、日に5,854円までは、副業収入があっても失業手当は減額されずに受けることができるといえます。 

 なお、
「賃金日額✕0.8+ 1,354円(令和6年度)」
を超える収入があった日は、失業手当支給されません

 詳しくは、「雇用保険の基本手当日額の変更~8月1日(木)から実施~」(厚生労働省HPへ外部リンク)の「2 失業期間中に自己の労働による収入がある場合の基本手当の減額の算定に係る控除額の引上げ」をご参照ください。

「越境EC」で収入を得た場合の「失業認定申告書」の書き方について、ハローワークに確認したやりとりの一例

ハローワークHP「雇用保険の具体的な手続き」内のPDF資料「記入例:失業認定申告書」の切り抜き画像
ハローワークHP「雇用保険の具体的な手続き」内のPDF資料「記入例:失業認定申告書」の切り抜き画像

 事業主に雇用されずに働いて収入を得る場合、その働き方や収入の得方は多様で、「失業認定申告書」の一般的説明を見聞きしただけでは、その書き方に疑問が生じるかもしれません。

 例えば、越境EC(パソコンやスマホを通じて海外と商品を売買する。大手サービスにeBayShopeeなどがある)で収入を得るためには、出品日から在庫状況の確認オーダー(注文)対応仕入れの発注商品の発送までと、売れた商品の1個あたり1日あたりの作業時間は短くても、働いた日としては長期に渡ります。

 それらをすべて、働いた日として申告するべきでしょうか?
(結論は、すべて申告すべきです)

 また、収入のあった日とは、オーダーのあった日商品の発送日外貨の入金日外貨から円口座への出金日のいずれを指すのでしょうか?
(結論は、外貨の入金日か外貨から円口座への出金日どちらでも良いとのことでした)

 こういった疑問については、ハローワークの窓口でも一律の対応方針が決まっていないか、少なくとも十分に周知はされていないようです。

 聞き方や聞く相手によって違った回答だったり、初めて聞くケースなので内部で協議が必要だと保留されたりしました。

 以下に、初めて失業認定申告書を提出する前に、ハローワークに問い合わせた際のやり取りを紹介します。

  1. 働いた日については、越境ECで収入を得るまでの一連の作業を説明したうえで、出品作業をした日発送日が収入のために働いた日になるのかと聞いたところ、この時点ではそれで良いとして受理された。
  2. 収入のあった日については、売上の入金日と確認した。
    (この時点では実際の入金がなかったため、外貨の入金日円口座への出金日の区別が未確認
  3. 収入額は、為替計算で端数が生じれば切り上げとするとのこと。
    (これは一律の決まりではなく、その場で担当者が決めた感じ。後に、円口座への出金日を収入のあった日とすることとなったため、端数処理の問題は生じなくなった)
  4. 何日分の収入かは、この時点では発送日のみを計上した。なお、失業認定申告書には「何日分の収入か」を書く欄はあっても、その働いた日が何月何日なのかは書く欄がない。ところが、窓口ではその働いた日が何月何日なのか具体的に聞かれるので、答えられるよう準備が必要。
    (必要なら記入欄を設けてほしい)

 上記のようなやり取りをした時点では、オーダー数も少なく、退職後の収入もまだなかったため、収入を得るようになったらどんな数字を記入することになるのか、しっかりとイメージができていませんでした。

 しかし、ある程度オーダー数が増えてくると、上記の申告方法では実情とかけ離れてしまうのではないかという疑問が生じました。

 例えば、それぞれ別の人から入ったオーダーが5件(いずれの商品も、退職前から出品していたものとする)あり、5つの商品を1日にまとめてそれぞれのバイヤー宛に発送したとします。

 上記の申告方法では、これら5件のオーダーから得られる収入は、1日分の働きの成果として申告することになってしまいます。
 すると、それぞれのオーダーから大した収入を得ていなくても、まとめて1日分の収入とすることで、失業手当が減額される恐れが出てきます。
 それに、出品日から商品を発送する日までの短い作業があった日々を、書類上申告できていないことが、後で不正申告と取られかねないのではという点が、より心配になりました。

 そこで、次回の認定日を迎える前に、電話でそれらの疑問を問い合わせたところ、短い作業日でも働いた日として申告するよう言われました。それは納得です。

 しかし、「何日分の収入か」には、1つ1つの売上に対する作業日を合算して記入するよう言われました。
 これは疑問でした。
 それぞれの作業日をすべて合算すると、重複する日が出てくるため、おかしな数字が出来上がってしまいます。

 そこで、例えば出品した商品に関して毎日作業をし続けて、出品してから30日後5品売れた収入があったとしたら、「何日分の収入か」には30日✕5品で150日分と記入するのかと確認すると、そうだと返ってきます。
 それでは、働いた日が重複して計算されて、1日あたりの収入額が小さくなりすぎますよと指摘しても、決まりですのでと電話口で返されます。

 話が長くなってくると、細かい申告ができないというのであれば、副業はやめてもらうしかない、と言われる始末です。

 指示された通りの書類が作れない、と言っているわけではありません。電話では話が通じていないようでした。
(ハローワークとして、必要な書類が提出できなければ失業手当を支給しない、とは言えても、副業をやめるよう言うのは不適切だと思います。)

 結局のところ、その後の認定日に失業認定申告書を提出に行ったところ、ハローワークから労働局に確認したということで、話が変わっていました。

 一度「何日分の収入か」に含めた労働日は、以後の収入に対する労働日には含めないとする、ということです。それなら納得です。
(前回言った内容を訂正するのなら、ごまかさずに間違っていた点を説明してほしかった)

 ということで改めて、労働局も巻き込んでハローワークに確認した、越境ECの場合の失業認定申告書の書き方の一例を整理します。

  1. 働いた日については、商品を発送した日だけでなく、それ以前のすべての作業日を申告する。例えば、仕入れのための在庫チェックを毎日やっているのであれば、前回認定日から今回認定日の前日までの全部の日内職した日(1日4時間未満かつ週に20時間未満)として申告する。
  2. 収入のあった日については、ハローワークの担当者に確認の上で、円口座への出金日とする。
    申告内容に一貫性があれば、外貨入金日でも円口座への出金日でも、どちらにしても良さそう。外貨入金日を収入のあった日とすると、為替計算での端数処理や円口座への出金日までの為替差損益が関係してしまい、無用に複雑になるため、最終的な金額が確定する円口座への出金日とした)
  3. 収入額は、ハローワークの担当者に確認の上で、円口座に入金された額とする。
  4. 何日分の収入かは、その収入に関わる最後の作業日(発送日)以前のすべての作業日を合計する。ただし、二重に計上はしない
    (毎日が作業日とすると、前回認定日の収入に関わる最後の労働日の翌日から、今回認定日の収入に関わる最後の労働日まで合計日数を記入し、その具体的日付は口頭や欄外のメモ書きで担当者に伝える)

まとめ

 失業手当を受けながら副業をするためには、

  • 開業届は出さない
  • 1日4時間以上、週に20時間以上は副業の作業をしない
  • 副業で働いた日は、短い作業日やそれによりまだ収入を得ていない日も含めて、すべて失業認定申告書に記入する
  • 「何日分の収入か」に関して、収入を得るために働いた具体的な日付の聞き取りがあるため、書類に記入欄はないがハローワークの窓口で答えられるように準備しておく

 なお、個別の状況に応じた詳細については、雇用保険の基本手当(失業手当)の申告はハローワークに、開業届の提出は税務署にご相談いただくよう、お願いいたします。

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