厚生年金には「脱退手当金」という制度があります。
基本的には昭和61年3月までで廃止された制度ですが、昭和61年4月以降も、条件を絞った経過措置として残っています。
今回は、この「脱退手当金」という制度を紹介するとともに、これに絡めて年金記録の確認で見逃されがちな注意点について、書いていきたい思います。
脱退手当金とは
厚生年金に加入はしたけれど、短い加入が掛け捨てにならないよう、加入期間を一時金で精算するという制度です。
昭和61年4月の法律改正により廃止されましたが、昭和16年4月1日以前生まれの方に限って、加入期間が年金の受給につながらないことなどを条件として、「脱退手当金」を請求することがことができます。
脱退手当金の支給対象となった期間の扱い
脱退手当金を受けることで精算した年金加入期間は、年金額には算入されませんが、昭和61年3月までに脱退手当金を受けた昭和36年4月~昭和61年3月の期間は、合算対象期間となります。
合算対象期間とは、老齢年金を受けるために必要な10年の期間に、納付や免除等の期間と合算して計算される期間のことです。
脱退手当金の確認方法
脱退手当金により精算された期間であっても、日本年金機構のコンピュータでその記録は消えることなく管理されています。
年金記録を確認するために年金事務所の窓口で相談すると、「被保険者記録照会回答票」が発行されます。
脱退手当金を受けたことがあれば、「被保険者記録照会回答票」の備考欄に、「脱退手当金」の表示と期間が記載されているはずです。
また、「被保険者記録照会回答票」は、「ねんきんダイヤル」に電話することで郵送してもらうこともできますし、「ねんきんネット」にログインすることでインターネットでその電子版を確認することもできます。
年金加入期間が確認できない場合
「被保険者記録照会回答票」の中に、備考欄も含めて、厚生年金に加入していたはずの期間の記載がなければ、その加入記録が持ち主不明の状態で残っている可能性があります。
その場合は、「年金記録照会申出書」という書類を年金事務所に提出することで、もれている年金記録の有無を調査することができます。
なお、厚生年金に加入していた当時の会社名や期間がはっきりと思い出せない場合は、「年金記録照会申出書」の個別の状況に応じた書き方について、年金事務所の窓口でご相談されることをお勧めします。
他の厚生年金加入期間や国民年金の納付期間により、すでに年金を受け取るための期間を満たしている方にとっては、年金額に影響のない脱退手当金の記録は、調査の甲斐がないものかもしれません。
しかし、年金記録のもれが疑われる以上、一度は調査をして、その記録の有無をはっきりさせた方が良いと思われます。
思ってもみなかった記録が見つかることで、意外なほど大きな年金の増額があるかもしれません。
脱退手当金の調査で年金額が増える事例
例えば以下のような事例で、年金額が増額される可能性があります。
脱退手当金を受けていない年金記録が見つかる
ご年配の方ほど、年金記録の不備が心配されます。
なぜなら、年金記録を管理しているコンピュータのシステムは年々改良が進んでおり、以前であるほど手作業で記録を探す範囲が大きかったからです。
そのため、年金を受け取り始めた当時に年金記録を申し出て見つからなくても、今から調査することで、目的の年金記録が見つかるかもしれません。
年金の受け取り開始が早まる
この可能性は、脱退手当金で精算された期間が見つかっても当てはまります。
年金を受け取るためには納付等の期間が10年必要と先述しましたが、これは平成28年8月1日からのことで、それより前は、25年必要とされていました。
そのため、年金を受け取るための期間が25年なくて65歳を過ぎていた方でも、10年の期間があれば、平成28年8月1日に年金を受け取る権利が発生しています。
こういった方に年金記録が見つかると、それが脱退手当金で精算済みであっても、合算対象期間が増えることにより、10年でなく25年の期間を満たして、年金を受け取る権利の発生が早まることがあります。
記録が見つかることで、年金を受け取る時期が早まった分は、差額を受け取ることができます。
まとめ
年金記録は、脱退手当金で精算済みの期間でも、記録として消えずに残っています。
もしも、入っていたはずの厚生年金加入期間が「被保険者記録照会回答票」で確認できなければ、「年金記録照会申出書」による調査をしてみることをお勧めします。
また、年金記録に関してはご年配のご家族の方についても気にかけていただいて、場合によっては「ねんきんネット」の「持ち主不明記録検索」機能も活用して、年間記録に疑問がないようにしていただくと、ご安心かと思われます。
コメント