「年金記録問題」を解決するための3つの方法

年金記録

 平成9年以降、年金記録は1人に1つの基礎年金番号で管理されるようになったが、その基礎年金番号で管理されていない持ち主不明の年金記録約5千万件あることが平成19年に公表された。それは「宙に浮いた年金記録」と呼ばれ、その他の年金記録の不備や不正とあわせて、「年金記録問題」として世間を騒がせた。
 令和5年9月時点で、「宙に浮いた年金記録」のうち、〈解明作業中又はなお解明を要する記録〉は、1,726万件まで数を減らした。(「未統合記録(5,095万件)の解明状況」参照。「年金記録問題に関する取り組み」>「取り組みの状況」より。日本年金機構HPへ外部リンク)
 その統計上の内訳では、「死亡者に関連する記録」760万件が、基礎年金番号に統合されないまま、<解明された記録>として整理されている。しかし、令和5年の今年に入ってから、このことは国会において質疑の対象となっており、対応の可能性が検討されている。(「質問本文情報」参照。「第211回国会 質問の一覧」>「16  消えた死者年金に関する質問主意書」より。衆議院HPへ外部リンク)
 そして、この「死亡者に関連する記録」を含まない〈解明作業中又はなお解明を要する記録〉1,726万件ですら、現在のペースでは、本来の記録の持ち主の存命中に解決できるか危ぶまれる。(「年金記録問題への取組状況」等の取りまとめ」>各年月の「5,000万件の未統合記録」>「前回比・前回数値」参照。日本年金機構HPへ外部リンク)
 こうした状況を踏まえて、「宙に浮いた年金記録」を解明するペースを上げるため、ここでは3つの方法を取り上げたい。

ねんきんネットの「持ち主不明記録検索」で皆の記録を探そう

 まず、既存の「ねんきんネット」(日本年金機構HPへ外部リンク)がもっと周知されるといい。
「ねんきんネット」にログインすると、自分の年金記録をパソコンやスマホで見たりできるが、それだけではない。
 氏名・生年月日・性別を入力することで、それと一致する「宙に浮いた年金記録」の有無を確認することができる「持ち主不明記録検索」という機能もある。この機能では、ご本人ご遺族から依頼されていることを前提に、自分以外についても調べることができる。しかも、調べる対象には亡くなった方の記録も含まれる
 そこで、年金記録を確認してないかもという方が身の周りにいたら、代わりに「持ち主不明記録検索」機能を使ってみると、喜ばれるかもしれない。その対象者を亡くなった方まで広げて調べてみれば、本来受け取れるはずだった年金の差額を未支給年金請求(日本年金機構HPへ外部リンク)により、ご遺族が受け取れることになるかもしれない。なお、年金記録の訂正による年金の差額は時効による消滅なく、全部を受け取ることができる。(「年金時効特例法」を参照。日本年金機構HPへ外部リンク)
 この「持ち主不明記録検索」機能が、金融機関の年金相談会や高齢者向け施設でも利用されれば、調査される対象者は格段に多くなり、効果を上げると期待できる。
 なお、利用の際には、「宙に浮いた年金記録」が正しい情報で収録されているとは限らないことに留意されたい。例えば、「シズオ」という名前が「シスオ」濁点が正しく入ってなかったり「フルヤ」という名字が「フルタニ」違う読み方がされていたり、様々な可能性がある。
 そのため、調査対象の氏名を入力する際には、旧姓も含めて、様々なありそうなフリガナ組み合わせて検索することで、見つけられる可能性を上げられる。そのありそうなフリガナとしては、「(1)年金記録のコンピュータ上での突合せ(名寄せ)」(日本年金機構HPへ外部リンク)にある名寄せ条件の緩和例が参考になる。
 もし、「持ち主不明記録検索」機能で該当ありとなったら、その先の確認作業や手続きについては年金事務所と相談する必要が出てくる。その際、該当の年金記録が必ずしもご本人のものとは限らず、またその年金記録により年金額が増額するとも限らないことは、念頭に置いておきたい。
 とはいえ、「未統合記録(5,095万件)の解明状況」「年金記録問題に関する取り組み」>「取り組みの状況」より。日本年金機構HPへ外部リンク)と「年金額回復の具体的事例(平成22年度~23年度)」(日本年金機構HPへ外部リンク)をあわせて見ると、多少の手間でも掛けてみる価値があると思う。

亡くなった方の年金記録も確認しよう

 平成19年に発覚した「宙に浮いた年金記録」を解明する取り組みで、真っ先に開始され、一定の効果を上げたのが「ねんきん特別便」だ。
 これは、平成19年から平成20年にかけて、すべての年金受給者加入者に年金加入期間をお知らせし、そこにもれや誤りがないかの確認を求めたものだ。特に、基礎年金番号の氏名、性別及び生年月日と一致する記録が「宙に浮いた年金記録」にある方に対しては、「名寄せ特別便」としてその旨を注意喚起した文章を入れ、回答がなければ何度も再送したり、事後確認を念入りに行っている。
 しかしながら、「ねんきん特別便」の送付対象に、原則として亡くなった方の記録は含まれなかった。亡くなった方の記録を元に年金を受け取っている遺族年金受給者には送されたが、そうでなければご遺族の所在の特定が困難なためとして、「ねんきん特別便」は送付されないまま<解明された記録>として計上されてきた。
 しかし、このことは令和5年の今年、国会質疑の対象とされた。現在、亡くなった方の記録についてご遺族にお知らせを行うことが可能かどうか、調査と検討が行われている。(「死亡者に関連する記録を中心とした未統合記録に関するサンプル調査の実施状況について」を参考。「社会保障審議会年金事業管理部会資料(第68回)」>○資料>【資料3】より。厚生労働省HPへ外部リンク)

 このことから、現在<解明された記録>として整理されている「死亡者に関連する記録」760万件のうちの一定程度は、今後解明作業の対象とされていくものと予測している。しかし、ご遺族の所在の特定と、年金給付に結びつく可能性による抽出する条件などで、その対象は限定的にならざるを得ない
 今後、「死亡者に関連する記録」の取り組みに新たな動きがあれば、それを機会に、これまで亡くなった方の年金記録がお知らせの対象となっていなかったことが、広く周知されるよう期待したい。そのニュースがご遺族へ届くことで、亡くなった方の年金記録を確認する必要性をお知らせすることになり、「宙に浮いた年金記録」の解明を進めるだろう。

本人の可能性が高い記録は、年金機構から全部教えてほしい

 さて、この段落の内容は、「ねんきんネット」のような現行の取り組みでもなければ、「死亡者に関連する記録」に対するように検討が進められている取り組みでもない。個人的な提案だ。
 日本年金機構では、基礎年金番号の登録情報や住民基本台帳ネットワークシステムの情報などから、「宙に浮いた年金記録」の持ち主である可能性を絞り込んで、年金記録確認のための各種お知らせを送付している。「名寄せ特別便」等といわれるものだ。
 ただし、年金記録の持ち主として確定するためには、厚生年金保険であれば会社名国民年金であれば当時の住所についての回答が、対象の年金記録と一致しなければならない
 これは、問われている年金記録の時期がであればあるほど、また期間が短ければ短いほど、例えご本人であっても正しい回答を返すのは難しくなるだろう。ましてや、亡くなった方についてご遺族が回答するとなれば、なおさら難易度は上がる。
「未統合記録(5,095万件)の解明状況 <令和5年9月時点>」(日本年金機構HPへ外部リンク)によると、「名寄せ特別便」等の送付対象でありながら、「ご本人から未回答のもの」201万件あり、「『自分のものではない』と回答のあったもの」159万件ある
 ご本人確認をないがしろにして、年金記録を誤って別人に結びつけることは当然に避けるべきだ。しかしその一方で、問題発覚から16年を経ても、「死亡者に関連する記録」を含めれば2千万件を超える記録がいまだ未解明である現状がある。これらを考慮すると、年金記録の持ち主を確定するための基準を緩やかにする必要性を検討したくなる。
 具体的には、「名寄せ特別便」等の送付対象になる年金記録であれば、会社名や当時の住所の回答は不要とし、ご本人もしくは権利のあるご遺族の同意のみで、年金記録を統合することを提案したい。以後、この記事ではこれを『推定統合』という。
 『推定統合』を実行する際に考えなければならないことを、ここでは2点あげておく。1点目は送付対象者の絞り込み、2点目は別人に誤って記録を統合してしまったと思われる場合の対応だ。
 1点目の送付対象者については、「名寄せ作業」(日本年金機構HPへ外部リンク)でいうところの「第1次」の条件から慎重に始めるのがいいと思う。別人への送付の可能性を下げるため、送付対象者以外に氏名・生年月日が一致する別人が確認できないことと、送付対象者の年金記録と送付対象の年金記録の期間が重複していないことも、追加条件とした方がいいだろう。
 なお、経過次第で、より条件が緩和された「第2次」の条件を送付対象とすることも視野に入れたい。
 2点目の、別人に誤って記録を統合してしまったと思われる場合の対応については、例外的な対応が必要になると想定している。
 『推定統合』された記録について、後の申し出等により他にその持ち主が判明し、先に統合されたのは別人と確信されたなら、本来であれば先に統合された記録は削除され、それを元に支払われた年金は返納を求められることになる。そうしなければ、1つの記録を元に2人に年金が支払われる不合理が生じるからだ。
 しかし、そうした対応を前提に『推定統合』を進めることはいかにも座りが悪い。送付されてきた案内通りに年金記録が統合され、年金を受け取ったところ、後で間違いだったから返納が必要などという案内がされれば、混乱は必至だ。
 そこで、『推定統合』された記録について、後の申し出等により他にその持ち主が判明したとしても、先に統合した記録の削除や年金の返納求めずに、後に判明した方への記録と年金額の訂正を可能にする、という例外的な対応はどうだろうか。
 つまり、1つの記録を元に2人に年金が支払われる不合理を、『推定統合』の結果に限っては容認するということだ。そうする根拠としては、申し出により年金記録の持ち主であることが個別に確認された方はもとより、『推定統合』された対象者にも、その絞り込み条件を担保に、記録の持ち主であることに一定の蓋然性が認められるからだ。
 ただ、このような例外的な対応をするためには、新たな法律の施行が必要になるかもしれない。
 それでも、年金記録問題をめぐっては「時効特例法」(日本年金機構HPへ外部リンク)が施行されたことを思い起こせば、あながち不可能なことではないと考えている。

まとめ

  • 【年金ネットの持ち主不明の検索機能】

 強調しておきたい現行の取り組み。
 本人だけでなく、親族間金融機関の年金相談、高齢者向け施設などでも活用が広まってほしいもの。

  • 【死亡者記録の遺族へのお知らせ送付】

 今後に実行されるものと予想される取り組み。
 ただし、送付対象にできるご遺族限定的にならざるを得ないので、問題解決の効果を上げるためには、送付対象以外のご遺族にも、積極的な記録確認を呼びかける必要がある。

  • 【会社名等の回答を必要としない「推定統合」】

 個人的な提案
 厚生年金保険では住所が管理されていなかったため、年金番号の申し出によらず持ち主を確認するためには、会社名の回答が必要とされている。
 しかし、「宙に浮いた年金記録」を大量に残している現状を踏まえ、年金に加入した権利を守ることを重視し、会社名等の回答を必要としない『推定統合』の導入を提案する。

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