平成19年から取り沙汰された年金記録問題。
持ち主不明の年金記録が5,000万件以上あるということで、政治問題から社会保険庁の解体まで発展しました。
最近はその話題についてあまり耳にしませんが、その現状に関して、日本年金機構のホームページの資料を基に見ていきます。
未統合記録の解明状況
日本年金機構HPの「年金記録に関する取り組み」のページを見てみると、現状に関して様々なデータが載っています。
その中で一つ「未統合記録(5,095万件)の解明状況(令和3年9月時点)」(日本年金機構HPへ外部リンク)では、下記の数字が公表されています。
未統合記録(5,095万件)の現在の内訳
- 解明された 記録:3,311万件
- 解明作業中 又はなお解明 を要する記録:1,783万件
つまり、持ち主不明の記録は、年金記録問題が取り沙汰された当初から比べて、まだ3割以上残っているということになります。
では次に、どうしてこれほど大量に持ち主不明の年金記録が発生し、今なお解決に至らないのか、日本年金機構による分析内容から読み解きます。
年金記録問題の発生原因
冒頭で、「持ち主不明の年金記録」と書いていますが、これはつまり、基礎年金番号に統合されていない年金番号で管理された記録のことです。
基礎年金番号とは、平成9年1月から導入された、一人につき一つの年金番号です。
それより前では、国民年金や厚生年金、共済組合など、各年金制度ごとに年金番号を付けて記録を管理していました。
平成9年1月に基礎年金番号を導入するにあたり、その時点でその人が使っている年金番号を基礎年金番号として、それより前に持っていた他の年金番号は、基礎年金番号に統合するようにしました。
しかし、その基礎年金番号に統合されないままの年金番号が、持ち主不明の年金記録として大量に残っていることが明らかになったのが、いわゆる「年金記録問題」の発端です。
年金記録のもれの主な事例
- 転職が多い:基礎年金番号導入前も、厚生年金制度内では一人につき一つの年金番号が原則でしたが、その徹底のためには、転職先の会社に転職前の厚生年金番号を申し出しないといけませんでした。その申し出がないと、転職先の会社としてはその人が初めて厚生年金の加入をするものとして処理し、一人に対して複数の厚生年金番号が付けられることがありました。
- 姓(名字)が変わったことがある:氏名、性別、生年月日が同一の年金記録については、基礎年金番号導入の際もその後も、たびたび抽出されて本人の記録でないか照会されています。しかし、婚姻などにより基礎年金番号の氏名と他の年金番号の氏名が違っていると、この照会がされずに記録もれやすいことになります。
- 色々な名前の読み方がある:名前に色々な読み方があることで、年金記録が本来の読み方とは違って登録されていることがあります。このことにより、年金記録の照会がされなかったり、本人が申し出をしても記録が見つからなかったりすることが、年金記録のもれにつながります。
上記の3つの事例が、年金記録に「もれ」や「誤り」がある原因の9割を占めているとの分析がされいます(※)。
では現在、日本年金機構では年金記録問題の解決に向けて、どのような取り組みを行っているのてじょうか。
主なものを整理しました。
※「年金記録問題とは?」(日本年金機構HPへ外部リンク)
年金記録問題に関する取り組み
- 「ねんきん特別便」の送付:平成19年12月から平成20年10月の間に、その時点のすべての年金受給者と現役加入者に年金加入記録を送付して、記録の「もれ」や「誤り」の有無について回答を求めました。特に、氏名、性別、生年月日の一致状況等から本人の可能性が高い記録がある年金受給者には、電話や訪問も含めて入念な照会が行われました。
- 「ねんきん定期便」の送付:年金加入者に対して毎年誕生月に、年金加入記録や将来の年金見込み額などの情報を記載して送付されています。なお、35歳、45歳、59歳の方には全期間の詳細な情報が記載され、その他の方には直近1年間の詳細な情報が記載されています。
- 「紙台帳等とコンピュータ記録との突合せ」作業の実施:年金記録に関して記載された紙台帳と、コンピュータに収録された年金記録の突合せ作業が実施されました。この作業により年金記録の「もれ」や「誤り」の可能性が判明した対象者には「年金記録に関する紙台帳等の調査結果のお知らせ」が送付して、「もれ」の可能性がある年金記録の確認や、「誤り」のみつかった年金記録の訂正の可否について、回答が求めました。
- 「ねんきんネット」のサービス開始:インターネットを通じてパソコンやスマートフォンから、年金記録や年金見込み額について知ることができるサービスです。初回の利用には登録が必要ですが、年金記録を知るためには一番便利なサービスです。
- 各種お知らせ便の送付:日本年金機構が保有する年金記録だけでなく、住民基本台帳、厚生年金基金、共済組合等から提供された情報とも突合せを行い、「もれ」や「誤り」のある可能性のある記録を抽出し、各種お知らせとして対象者に照会を行い、回答を求めています。
まとめ
持ち主不明の年金記録が大量に発生してしまったのは、年金制度の当初は基礎年金番号の仕組みが導入されていなかったこともありますが、その発生が拡大してしまったのは、年金記録が自分で確認しづらかったからではないでしょうか。
そのため、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」など、現在、情報提供の拡充には力が入れられています。
また、問題の解決を難しくしている要因の一つには、年金記録の訂正をするために本人の確認や同意が不可欠だということもあるでしょう。
いくら本人である可能性の高い年金記録が抽出されたとしても、本人からその記録に対する確認や訂正の同意を得なければ、本人の記録と断定して記録の訂正を行うことはできないのです。
上記の「解明作業中 又はなお解明 を要する記録:1,783万件」の内訳には、「名寄せ特別便等の対象となったが、未回答等のため持ち主が判明していない記録」が、「672万件」あるとされています。
「672万件」の中には、実際に送付対象者のものではない記録もあるでしょうが、回答が得られれば本人に結び付く記録は相当程度あるはずです。
そのため、年金記録を確認する方法が以前よりも整備された今、年金記録を少なくとも一度は確認されることをお勧めします。
また、もしも日本年金機構から年金記録に関するお知らせが届いて、それが回答を求める内容であれば、多少面倒でも是非回答をされたほうがをいいと思います。
年金記録に「もれ」や「誤り」がないようにすることで、将来受け取る年金額で損をせずに済みますし、もう年金を受け取っている方であれば、過去分の差額もまとめて受け取ることができるかもしれません。
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