
年金で免除してもらったお金って、いつかは払ったほうがいいのかな?

え、払えるの?

払えないよ

……払いたい?

払いたくないよ!

免除された分は払わなくていいと思うよ、僕は
はじめに
国民年金は世代間扶養の社会保険であって、投資商品ではありません。-それはその通りなのですが、「1ヶ月分の保険料を払うと、将来もらえる年金がいくら増えるのか」という視点で見ると、支払い方によってリターンの効率が驚くほど違うことが分かります。
特に見落とされがちなのが、次の2つを同じ「後払い」として一括りにしてしまう誤解です。
- 学生納付特例・納付猶予の追納
- 免除(全額免除・一部免除)の追納
結論を先に言うと、この2つはお金の面で見ると大きな違いがあります。学特・猶予の追納は通常納付と同じくらいのリターン効率となりますが、免除の追納は本来の年金増加額に対して約2倍の保険料を払っていることになります。この記事では、その理由を計算式とともに整理し、あわせて損益分岐年齢とリターン率を試算できるツールをご用意しました。
なお、本記事の数値は令和8年度(2026年度)の制度を前提にした概算です。実際の追納額・年金額の正確な金額は、厚生労働省の「公的年金シミュレーター」(外部リンク)や日本年金機構の「ねんきんネット」(外部リンク)または年金事務所でご確認ください。
土台となる考え方 ― 保険料1ヶ月分は年金をいくら増やすか
老齢基礎年金の満額は、令和8年度で年額847,300円(昭和31年4月2日以後生まれの場合※)です。これは40年(480ヶ月)保険料を納めた場合の金額なので、単純に割ると次のようになります。
※昭和31年4月1日以前生まれの方は、844,900円
満額年金額(年847,300円) ÷ 480ヶ月 = 1ヶ月あたり年額約1,765円
つまり、保険料を1ヶ月分納めるごとに、65歳から受け取る年金が年額約1,765円ずつ、生涯にわたって増えることになります。これが、すべてのリターン計算の土台になる数字です。
令和8年度の月額保険料は17,920円なので、通常納付の場合、次の年数で元が取れる計算になります。
損益分岐年数 = 17,920円 ÷ 1,765円 ≒ 約10.2年
65歳から受給を始めるなら、75歳前後で払った保険料を回収できる計算です。厚生労働省「令和6年簡易生命表」によると、65歳まで生きた人のその後の平均余命は男性19.47年・女性24.38年で、65歳に足すと平均的な到達年齢は男性約84歳・女性約89歳になります。この水準を踏まえると、通常納付は「長生きすればするほど得をする」設計であり、単純な損得だけで見れば悪くない水準だといえます。
免除の追納が「割に合わない」理由
ここからが本題です。全額免除・3/4免除・半額免除・1/4免除を受けた期間は、実は追納しなくても年金額に一定割合が反映されます。これは、保険料の半分を国庫(税金)が負担しているためです。
免除区分ごとの「追納しない場合の年金額への反映割合」は次のとおりです。
| 免除区分 | 自己負担した割合 | 追納しない場合の年金額の反映割合 |
|---|---|---|
| 全額免除 | 0 | 1/2 |
| 3/4免除 | 1/4 | 5/8 |
| 半額免除 | 1/2 | 6/8(3/4) |
| 1/4免除 | 3/4 | 7/8 |
(この割合は平成21年4月の法改正以降のものです。それ以前は国庫負担割合が異なり、たとえば全額免除の反映割合は1/3でした。)
このカラクリは、どの免除区分でも共通しています。自分で払わなかった分について、国が半分を肩代わりしてくれる、という仕組みです。全額免除であれば、自己負担はゼロなので、国庫負担はその半分の1/2。つまり全額免除の月は、1円も追納しなくても、権利の半分はすでに”無料で”手に入っていることになります。
ここで追納を行うと何が起きるでしょうか。全額免除の月を追納する場合で考えてみましょう。すでに無料でもらっている1/2はそのままに、追納で埋まるのは残りの1/2分だけです。年金の増加額に換算すると、1,765円の半分、約883円/年にとどまります。ところが支払う保険料は、通常納付と同じ17,920円が原則です(3年度目以降に追納する場合は、これに加算額が上乗せされ、さらに高くなります)。つまり、通常なら1,765円分の権利を買える17,920円で、免除の追納では883円分の権利しか買えないことになります。
この883円/年を取り戻すには、17,920円 ÷ 883円で、約20.3年かかる計算です。
受給開始65歳を基準にすると、元が取れるのは85歳過ぎです。しかも、免除から2年度を過ぎて追納する場合は「加算額」が上乗せされ、支払額はさらに増えます(後述)。つまり免除の追納は、通常納付に比べて、実質的なリターン効率がほぼ半分になってしまいます。
この「効率0.5」は、実は3/4免除・半額免除・1/4免除でも同じ構造になります。免除された分を追納するときは、いつでも「すでに半分は無料でもらっている」状態から残り半分を買い戻す形になるため、区分にかかわらず効率は常に0.5になります。国庫負担という「すでにもらっている半分」があるために、追納で買い戻す権利は常に割高になる、という点がポイントです。
実際に4区分で計算してみると、支払う額の規模は違っても、損益分岐年数はどれも約20.3年でぴったり揃います。
| 免除区分 | 追納で埋める保険料 | 埋まる年金増加額 | 損益分岐年数 |
|---|---|---|---|
| 全額免除 | 17,920円 | 約883円/年 | 約20.3年 |
| 3/4免除 | 13,440円 | 約662円/年 | 約20.3年 |
| 半額免除 | 8,960円 | 約441円/年 | 約20.3年 |
| 1/4免除 | 4,480円 | 約221円/年 | 約20.3年 |
なお加算額について触れておくと、免除・猶予・学特の承認を受けた年度の翌年度から数えて3年度目以降に追納すると、当時の保険料額に一定の加算額が上乗せされます(日本年金機構HP「国民年金保険料の追納制度」参照。外部リンク)。加算額は物価・賃金の変動に応じた小幅な上乗せであり、当時の保険料額から大きく乖離するものではありませんが、免除の追納はただでさえ効率0.5であるところに、この加算額がさらに乗ってくるため、追納が遅くなるほど分が悪くなります。
学生納付特例・納付猶予の追納は「免除」とは別物
ここが最も誤解されやすい部分です。学生納付特例・納付猶予は、免除と違って追納しない限り年金額への反映割合はゼロになります。国庫負担による「無料の半分」は存在しません(受給資格期間には算入されますが、年金額の計算には一切反映されません)。
したがって、学特・猶予の追納は「反映割合0 → 1」への転換であり、通常納付と同じ効率になります(ただし3年度目以降に追納する場合は加算額が上乗せされるため、この場合は通常納付よりわずかに効率が下がります)。
「免除も学特も、後から払うと損」という漠然としたイメージで一括りにされがちですが、ここまで見てきたとおり、実際には学特・納付猶予の追納は免除の追納の倍近く効率がよいのです。
まとめ表
| 支払い方法 | 支払う額の目安 | 年金増加の効率 | 損益分岐年齢(受給開始65歳の場合) |
|---|---|---|---|
| 通常納付 | 当月の保険料額 | 100% | 約75歳 |
| 学生納付特例・納付猶予の追納 | 当時の保険料額(+加算額) | 100%(加算額がある場合、その分低下) | 約75歳前後 |
| 免除(全額〜1/4)の追納 | 当時の保険料額の未納分(+加算額) | 約50% | 約85歳超 |
おわりに ― この記事の位置づけ
ここまでの計算は、あくまで「支払った保険料に対して年金額がいくら増えるか」という狭い意味でのリターンに絞った試算であり、次のような要素は考慮しておりません。
- 追納した保険料は社会保険料控除の対象になり、その年の所得税・住民税が軽減されます(別途の節税効果)
- 障害基礎年金・遺族基礎年金の受給資格にも保険料納付状況が影響します
- 平均余命(65歳まで生きた人がその後平均して何年生きるかという期待値)は統計値であり、個人の寿命を保証するものではありません
その上で言えるのは、「免除の追納は、通常の納付や学樂・猶予の追納と比べて明確に効率が悪い」という点は、意外と語られていないという事実です。追納の順序は、学特・猶予期間を優先し、次いで免除期間を古い分から、というルールになっているので(古い免除期間が先に期限切れになりそうな場合は例外的に選択可)、まずはそれに沿って進めれば、効率のよい学特・猶予から自然に片付いていく形になります。
下のツールで、支払い方法・支払う期間・想定寿命を入力すると、損益分岐年齢とリターン率の目安を計算できます。
国民年金保険料 リターン計算ツール
支払い方法ごとに、増える年金額・損益分岐年齢・実質リターン率の目安を試算します。保険料額や納付記録などの基礎データは「ねんきんネット」等で確認できますが、損益分岐年齢や実質年率はこのツール独自の試算であり、公的機関が公表・確認している数値ではありません。
