「弟くん、ヤバいことになった」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「新しい上司がヤバい」
「どうヤバいの?」
「いつも不機嫌で、部下が先回りして要望を叶えないと当たり散らすんだ」
「関白気取りか」
「部下じゃなくても、弱い立場と思えば平気で無礼。廊下で立ち話してた若い人にに、「どけ」っ言っててヒヤッとした」
「不良中学生なの?」
「部下が育休の申請を出すと、繰り返し面談室に閉じ込めて取り下げさせようとしてた」
「訴えられればいいのに」
「体調不良で休んでもノルマは本人に積み増しするし」
「組織の瓦解が目に見える」
「そんな上司と部下の橋渡しがわたしの役目。なんかもう眠れない。会社行きたくない」
「それはヤバいよ。今のうちに精神科にかかっておこう」
「でも、精神科に行くほどの病気じゃないし……」
「病気じゃなくても、不眠なら薬を出してくれると思うよ。それに、いざという時に味方になってもらうためにも」
「え、どういうこと?」
世の中には、管理職という立場になると礼儀をわきまえられなくなる人が結構います。中にはその程度が甚だしい人も。
そんな人を上司にあたってしまった部下は大変です。特に身近に接する立場なら、病気になってもおかしくありません。
そんな上司ばかりいる職場なら、退職が優先的な選択肢となりますが、追い詰められてからいきなり退職するのはリスキーです。
上司がヤバいと分かった時点で、味方になってくれる精神科の医師を探しておきましょう。
「うつ病」等で休職や退職をすることになっても、傷病手当金で1年6ヶ月、雇用保険で300日もしくは360日、生活するための金額を受け取れます。
休職や退職の意思を上司や会社に伝えるやりとりも、診断書を介することで楽になります。
最悪の状況を想定して準備しておく
毎日、高圧的な上司の下で強いストレスにさらされ続けたとします。今は耐えられても、やがては病気になってしまうかもしれません。
うつ病で疲弊して判断力も落ちた状態になると、転職のための準備もおぼつきません。退職のための手続きすら恐ろしく思えてきます。
そして限界が来たときに突然退職したとすると、雇用保険の基本手当が受け取れるのは90日~150日の間です(「基本手当の所定給付日数」(ハローワークHPへ外部リンク)の「2. 1及び3以外の離職者」参照)。しかも、2ヶ月間は給付制限期間として基本手当が受け取れないので、生活の不安が募ります。
退職後に会社から解放されて、毎日を寝て過ごし疲れを癒やしていると、時間の経過はあっという間です。将来の不安に悩まされれば、体調の回復も遅れてしまいます。
そんな最悪の状況を想定した上で、早いうちから精神科を受診しておくと、いざという時に社会的な支援を得るための準備ができます。
具体的には、医師から「うつ病」等の診断がされているのと受診していないのとで、傷病手当金と雇用保険の基本手当から受けられる金額で大きな差が出ます。(傷病手当金:0→1年6ヶ月。雇用保険の基本手当:90日~150日→300日か360日)
いざ退職になるとしても、「うつ病」の診断により2年かそれ以上の生活の保障がされると分かっていれば、ヤバい上司の下でも面従腹背で過ごせます。
病気になるまで追い詰められたとしても、その時こそ「診断書」により、会社の「安全配慮義務」を盾にとって優位に立てます。
傷病手当金と延長された雇用保険の基本手当を受けながら、体調を回復させ、転職の準備もできるし、会社に属さない働き方も探せます。
精神科の受診は早いうちに
朝、起きるのがつらくて、通勤電車で気分が悪くなり、どうしても出社ができなくなってから精神科に行くのではなく、気分の落ち込みや不眠などの良くない症状が出始めたら、早いうち精神科を受診しましょう。
精神科の医師は味方です。話を聞いてくれます。薬を出してくれます。必要なら休職のための診断書も書いてくれます。
「うつ病」等の診断書を前にすれば、普段高圧的な上司でもおとなしくなるはずです。その上司と話がしづらければ、更に上の上司に直接話してもいいでしょう。
とにかくヤバい上司から離れるため、配置転換を申し出てもいいかもしれません。会社は労働法上の「安全配慮義務」を意識するはずです。
会社に休職の制度があれば、それを利用してもいいでしょう。休職している間に、嫌な上司は異動等でいなくなるかもしれません。
とは言え、法律に重きを置かない性質で、しかるべき対応を取らない会社もあるかもしれません。そんな状況に置かれていたとしても、精神科を受診していれば医師が味方となってくれます。医師は社会的な強い権威を持っています。
しかし、明日にも退職したい状況で精神科に飛び込んでも、医師はすぐに診断できないかもしれません。医師と患者の相性もあります。そのために、早めの受診をお勧めします。頼りになる味方を探しましょう。
なお、医療費の自己負担が1割もしくは0になる「自立支援医療」制度について、当ブログの「精神科の医療費をタダにしてもらう方法」(内部リンク)をご参考にしてください。
傷病手当金は一定の条件で退職後も受け取り可能
保険証が国民健康保険でなく、会社勤めで協会けんぽや健康保険組合から発行されたものであれば、「傷病手当金」の給付制度があります。
たとえ会社に休職制度がなくても、医師に「労務不能」と認められてから3日間連続(有給休暇、土日祝日含む)で会社を休めば、4日目の休みからは傷病手当金の給付対象となります。
傷病手当金の金額は、給与の(正しくは標準報酬月額の)3分の2です。
受け取れる期間は1年6ヶ月までです。
そして、退職時点で健康保険(任意継続、国民健康保険を除く)の加入期間が連続して1年以上ある方が退職前に傷病手当金を受ける条件を満たしていれば、退職後も引き続き傷病手当金の給付対象となります。
もう上司の顔を1日も見たくない、と思ったとしても、退職前に精神科を受診し、労務不能と診断されるかを相談しておきましょう。
会社の健康保険に加入した上で、医師による労務不能の診断後、連続した3日間を含む4日以上休むという手順を踏めば、傷病手当金を受ける条件を満たします。
「傷病手当金」について詳しくは、当ブログの「会社を休職してから『傷病手当金』をもらうまで」(内部リンク)をご参考ください。
雇用保険の基本手当は、「うつ病」と診断されると受け取れる日数が格段に増える
退職以前の2年間で雇用保険に通算して12ヶ月以上加入していれば、退職後に求職活動することでハローワークから基本手当を受けられます。(「基本手当について」(ハローワークHPへ外部リンク)の「受給要件」をご参照ください)
なお、倒産・解雇等による退職の「特定受給資格者」や「うつ病」による退職を含む「特定理由離職者」は、退職以前の1年間で通算6ヶ月以上雇用保険に加入していれば、上記の条件を満たしたことになります。(「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」(ハローワークHPへ外部リンク)をご参照ください)
基本手当の金額は、退職前の給料のおよそ50~80%(60歳~64歳については45~80%)で計算され、給料が低いほど高い率で計算されます。なお、年齢により上限額が定められています。例えば30歳以上45歳未満であれば、日額7,715円(令和5年8月1日現在)が上限です。(「基本手当について」(ハローワークHPへ外部リンク)の「支給額」をご参照ください)
受け取れる期間は、通常は退職前の雇用保険の加入期間によって決まります。例えば10年以上20年未満の加入であれば、120日まで基本手当を受け取れます。(「基本手当の所定給付日数」(ハローワークHPへ外部リンク)の「2. 1及び3以外の離職者」をご参照ください)
ところが、「うつ病」と診断されていれば「就職困難者」となり、基本手当を受け取れる期間は、45歳未満であれば300日、45歳以上65歳未満であれぱ360日となります。格段の差です。なお、雇用保険の加入が1年未満の「就職困難者」であれば150日となります。(「基本手当の所定給付日数」(ハローワークHPへ外部リンク)の「3. 就職困難者」をご参照ください)
おまけに、退職申し出時点で「うつ病」と診断されていれば、「就職困難者」であると同時に「特定理由離職者」となるので、通常は2ヶ月の給付制限期間がなしになり、退職してから早くに基本手当を受け取り始められます。
「うつ病」により退職するのなら、退職前に医師と相談しておき、雇用保険の書類で「うつ病」等の診断内容を書いてくれることを確認しておけば安心できます。
まとめ
- ヤバい上司にあたったら、不眠や気分の落ち込みの初期段階で精神科を受診しておくことで、公的な支援を受けるための準備となる
- 「うつ病」等の「診断書」を出されれば、会社は労働法上の「安全配慮義務」を意識せざるを得なくなる
- 会社の健康保険に連続して1年以上加入していれば、傷病手当金は退職後も引き続き受け取れる
- 雇用保険の基本手当は、「うつ病」と診断されていれば「就職困難者」として、45歳未満なら300日、45歳以上65歳未満なら360日受け取れる